ミカエルの翼446

朝食は鳥ハムにレタスとトマト、胡瓜のスライスにカッテージチーズ、ルカの好みばかりがずらりと並んだ。

真っ白な丸皿に並べられたサラダプレートである。イギリス式のブレックアンドファストで出される、通称、BBの朝食Styleである。

カッテージ大好き。

ルカは立ったまんま、胡瓜を摘んだ。爽やかな青臭さが新鮮だった。家で食べるより、沢村と食べたほうが食欲が増す。昨夜は体力も消耗したし、ルカの薄い腹はクウクウ鳴いた。

貧血持ちだから、ルカはチーズ食べなきゃ、

沢村はこう言いながら鍋を火にかけ、スープを温めていた。

僕、牛乳、あんまり好きじゃない、

ルカはテーブルの上に乗るジャムの瓶から塊の苺を匙ですくい、甲に乗せ、ペロリと舐めた。

手作りのようだ。多分、教会の信者お手製だろう。

僕もだよ。チーズ、ヨーグルトは大丈夫、

マメな沢村は何にでも手を足し、出来るだけ素材にもこだわるようだ。野菜はみずみずしいし、マヨネーズソースは手製であった。

沢村がキッチンに立つ間、ルカはそれを指ですくって舐めてみた。マスタード多め、大人の味である。

好きに挟んでいいの?

悪い訳などないのに聞いている。ルカは8枚切りのパン二枚の間に、並んでる野菜全部を挟んでしまった。

そして無理やりペチャンコにしてしまう、まるで昨夜のルカみたいだった。

それを無造作に口に運び、僅かな視線の先には沢村がいた。

ルカ、ちゃんと座って食べなさい。

ルカは椅子に座り膝を抱えて食べていた。沢村はスープを運びながらルカの隣に座り、そっと肩を抱いた。

美味しいよ?

足をピンと床に伸ばし、ルカは沢村に寄り掛かりながらサンドイッチを食べた。足を下ろしてもこうして寄り掛かりながら食べても、やはりどちらにしても行儀が悪い。

勿論、ルカの為だもの。いつになく張り切ったよ。

沢村はルカに褒めて欲しいのかもしれない。だがルカは伏せ目になって唇を動かした。

そうだ、葡萄はどう?巨峰があったよ。食べる?

ルカの好物は苺や葡萄。小粒のグラウディアも好きだが、紫に爪を染めながら皮剥く巨峰が好みだ。沢村は冷やした、たわわの巨峰を皮ごと一粒頬張った。

剥いてね。

ルカは笑いながら沢村に傾き、手元を覗いた。当然とばかりに沢村は皮を剥き、口を大きく開いた。ルカに開けと言わんばかりに、そして一粒投入した。

冷たい、ルカはモグモグとあっという間に食べてしまったが、意外な冷たさに唇を窄めた。

甘い?

うん、

どれどれ、沢村は窄めたはずのルカの唇を剥いた。結局、二人は食べながら絡むこととなる。

二人のマナーは相当悪い。

食事中は音を立ててはならない、それはフォークの音だったり、スープを飲む濁音や紊れた噛み音だったりする。これは当然の一般常識であるはずなのに、二人の蜜時には不要、守られなかった。

ルカは薄っすらと目を開き、沢村のそこそこ長い睫毛を見ていた。crashした物なのに、美味いのが不思議だ。

ちょっとごめん。

沢村のスマホが鳴った。

食事の間も、しょっちゅう連絡が入り、その都度沢村は席を立たねばならない。電話の主は岩渕牧師であった。そんなもの、とうに知れていて、ルカは段つまらなくなり、リビングのテレビを付けた。

沢村、誰かいるのか?

うん、サマースクールに行く子とね、今日は買い物しようって約束してたんだ。

瑠偉は?あれから、連絡は取れた?

いや、なんにも。まったく連絡が取れない。

岩渕は半分自重気味であり、沢村は岩渕の様子がいつもと違う事にも気付いていた。

落ち着いて。瑠偉はしっかりしてる。大丈夫だから。

沢村はテレビのリモコンで音量を調節した。そしてルカの髪を梳き、そっと引き寄せ抱いた。

深い事情があるのは明白だった。スマホを通じてすら岩渕の悲痛が伝わるようで、ルカは他人事でもまだ見ぬ瑠偉を思った。

沢村、物凄く虚しい、瑠偉は僕の電話を取ろうともしない。頭では理解してるのに、いつの間にやら瑠偉に期待したり、押し付けがましく恩を着せていたのかもしれない。何だか、嫌な感情が湧いてね。情けないよ、寂しくて堪らない。

岩渕の闇も深い。

沢村は言葉無く、唾を飲み込んだ。

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